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最高裁判所第三小法廷 昭和28年(あ)2909号 判決

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人清水兼次郎の上告趣意第一点について。

所論は、第一審判決が判示奥野利弼の本件会社における職員としての職務が「経済関係罰則ノ整備ニ関スル法律」(以下前記法律と略称)二条にいう職務に当ることについて判示するところは、公訴事実と一致しないのにかかわらず、訴因変更の手続を採らなかったのは違法であり、かつ判例に違反すると主張する。第一審判決は奥野利弼の職務を変圧器等古機器の払下と判示しているが、これに対応する起訴状には機器の修理契約その代金支払手続等の事務とあることは所論指摘のとおりであるが、判示事実も公訴事実もともに、被告人が判示の日時場所において前記法律二条の会社に当る関西配電株式会社京都支店資材課員奥野利弼の職務に関し賄賂を供与したという基本たる事実は全く一致し、単に職務の個々の具体的部分に相異があるに過ぎないのであるから、公訴事実の同一性が害されるという主張は当らず、訴因変更の手続をとらなかったからといって、これがため被告人の防御権行使に不当な影響を及ぼすものとは認められない。これと同趣旨に出た原判決の判示は正当であって所論は理由がない。そしてまた前示説明によって明らかなように、原判決には、なんら所論引用の各判例の趣旨に反するところはない。

同第二点について。

所論は、前記法律二条に定める役職員の職務の解釈について原判決に誤りがあると主張する。しかし前記法律二条の定める会社、組合またはこれらに準ずるものの役職員の職務とは、その職務であれば、同条にいう事業または業務にかかわりなく、すべてを含むと解すべきでないこというまでもないが、他面、立法の趣旨がこれらの事業または業務の公共的性質に主眼をおくことを考え合わせると、これを厳に同条にいう本来の独占的または統制的性質をもつ事務に局限すべきでなく、本来の事業または業務を行うために必要な関係にある事務をも含むと解するのが、当裁判所の判例とするところである(昭和二八年(あ)第四三八一号同三〇年五月一〇日第三小法廷判決)。ところで原審の支持する第一審判決の確定する事実によれば、関西配電株式会社(現在関西電力株式会社)は、被告人の本件犯行当時前記法律別表乙号二十九号所定の事業を営む者であり、被告人の贈賄の相手方である判示平井正夫、同奥野利弼はいずれも同会社の職員であって、平井については、その職務である機器の修理契約その代金の支払手続等に関し、また奥野についてはその職務である変圧器等古機器の払下に関し、判示のような趣旨の下に判示金額をそれぞれ供与し贈賄したというのである。前記判例の趣旨によってこの関係を考えてみると、右共同被告人等の判示業務は、前記法律二条にいう役職員の職務に含まれるものと解するを相当とする。従ってこれと異なる見解に立つ所論は採用できない。

その他記録を調べても刑訴四一一条を適用すべき事由は認められない。

よって同四〇八条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小林俊三 裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 本村善太郎 裁判官 垂水克己)

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